老人ホームの食事の作り方に関する注意点や工夫について

老人ホームなどの高齢者施設では毎日の食事が大きな課題と言えます。加齢によって体力が低下している高齢者に対しては栄養バランスや食べやすさなどを特に注意しなければいけません。特に要介護の高齢者は誤嚥による重大な健康被害に見舞われるおそれがあります。

老人ホームが提供する食事の内容や作る際の注意点などを詳しく学びましょう。

「老人ホームで人気のあるアクティビティ」

高齢者向けの食事は徹底した安全管理が基本

老人ホームは入居する高齢者に対して毎日の食事を提供しますが、そのメニューには高齢者施設ならではの工夫が施されています。多くの場合、食材を小さく切り分けていますが、これは一口当たりの量を減らすことで食べやすくする目的があります。

高齢者は加齢によって身体機能が低下していますが、あごや喉の筋肉の衰えも例外ではありません。食べ物を噛み砕き、飲み込むにはこれらの筋肉がしっかりと働く必要があります。高齢者は筋肉の力が弱っているので噛んだり飲み込む行為が困難です。

特に飲み込む力が弱っていると食道ではなく気管に入り込む誤嚥が起こりやすくなります。誤嚥は窒息の他、肺炎などの重大な健康被害の原因になるので絶対に避けなければいけません。高齢者の安全を守り、体調を良好に保つためには食材を小さく切り分ける工程は必須と言えるでしょう。

高齢者の体の具合によってはミキサーにかけてペースト状にするなどさらなる工夫も求められます。

また、高齢者は唾液の分泌量が減少して口内が乾いていることが多いのも誤嚥を起こしやすい理由のひとつです。専用のとろみ剤を加えて飲み込みやすくするのも高齢者への配慮になります。とろみ剤は食材の風味には影響しませんが、多すぎると食感が変わることがあるのでその点は注意します。

水やお茶などの飲み物もとろみ剤を加えることで誤嚥のリスクを減らすことができますが、安全に飲み込むには少量ずつゆっくりと口に含むのが賢明な方法です。

栄養バランスへの配慮も忘れてはいけない

食事の質は栄養バランスの良し悪しで決まると言っても過言ではありません。特に高齢者に対しては加齢や病気による体力の低下、一日に必要な量などを考慮して食事を提供する必要があります。70歳以上の高齢者の場合、男性なら約1850キロカロリー、女性は約1500キロカロリーが一日に必要なカロリーとされていますが、これは一日のほとんどを静かに座って過ごし、体をほぼ動かさない場合です。

そのため、老人ホームに入居している高齢者に適した数値と言えます。

しかしこの数値はあくまでも目安であり、要介護の数値や健康状態などによって変わる点を注意しなければいけません。

また、カロリーの数値よりも栄養バランスこそ重視すべきと言えるでしょう。同じカロリー数値でも特定の栄養だけに偏ってはいけません。高齢者は新陳代謝が低下しているので栄養が分解しきれず、脂肪になって体に蓄積しやすくなっています。

見た目の体つきに変化がなくても内臓脂肪が蓄積して肥満の状態になる可能性は若い人よりも高いので、食事の栄養バランスには十分に注意する必要があります。様々な栄養をバランス良く摂取できるメニューにすることが高齢者の健やかな暮らしに繋がります。

高齢者向けの食事は新鮮な食材の使用と調理場の衛生管理が重要

老人ホームにおける食事作りは高齢者の体調を考慮することが何よりも重要なポイントです。使用する食材は栄養が豊富であることはもちろん、鮮度が高い良質な物を選ばなければいけません。鮮度が落ちている物は体に害をもたらす細菌が繁殖している可能性があるためです。

傷んだ食材は細菌から発生した毒素に汚染されているので決して使ってはいけません。毒素は洗浄や加熱では除去できないので、見た目が普通で不快な臭気が発生していなくても傷んだ食材は避けるように心がけます。また、調理場を清潔に保つことも老人ホームで食事を提供する際の重要な注意事項になります。

わずかな汚染が食中毒の原因になるケースは珍しくないので、こまめな掃除や消毒が欠かせません。調理場を清潔に保つには食材の切りかすや残飯などを放置しないことが基本です。わずかでも残っているとそこから細菌が爆発的に繁殖し、調理場全体が汚染されることがあります。

また、害虫が増える原因にもなるので調理場の掃除は非常に重要と言えるでしょう。水濡れを放置するのもカビや害虫の増殖に繋がるので良くありません。調理場で働く人は自身が汚染源にならないように、日頃から衛生管理に気を配って清潔な状態を保つように心がけます。

外部業者に委託するメリットや注意点

老人ホームでの食事作りはホームの職員が直接行う方法と、外部の給食業者に委託する方法に大別されます。このうち、給食業者への委託は食事作りのノウハウがあり、食材の一括管理ができるなどのメリットがあることから、老人ホームをはじめとする介護施設の食事作りの主流になっています。

衛生管理も適切に行われているので安全と言えますが、その一方でどの介護施設でも画一的なメニューになりやすい点は無視できません。栄養バランスが良く、小さく切り分けられているので高齢者に適しているのは事実ですが、似たり寄ったりなメニューになるのも事実です。

食事は毎日行うものなので、飽きを感じさせない工夫が求められます。

高齢者の心身の状態を考慮するのが老人ホームの仕事

老人ホームは単に高齢者が共同で暮らす場ではありません。毎日を健やかに暮らすための環境が整っていることが重要になります。ホーム側は常に施設の環境や入居者の心身の状態を把握し、状況に応じて最適な方法で対処しなければいけません。

食事についても同様であり、心身の不調によっていつもなら美味しく食べることができるメニューでも口を付けることすら億劫に感じてしまう場合があります。食べることを無理強いするのではなく、なぜそのような状態に陥ったのかを理解したうえで対処することが老人ホームのあり方と言えるでしょう。

食事は身体機能を保つことを目的とした栄養補給行為ですが、それだけではなく味や食感を楽しむ目的もあります。その点を踏まえ、毎日の食事を楽しめるようにすることが老人ホームの務めです。

入居者が食事を楽しめることが優良な老人ホームの特徴

入居者へ食事を提供するのも老人ホームの仕事のひとつですが、単に栄養を補給するだけではなく、味や香り、食感を楽しむ行為でもあることを忘れてはいけません。栄養バランスが良く安全な食材を使うのはもちろん、毎日の食事が楽しいと感じてもらうことが重要なポイントになります。

入居者ごとに異なる好みや体の具合を考慮して、食べやすくするための工夫を施すのが老人ホーム側に求められる姿勢です。